今回のゲストは、ヤングケアラー研究の第一人者である成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子(しぶや・ともこ)さん。 政府はヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義。09年に成立した「子ども・若者育成支援推進法」を改正して、国や自治体が支援に努める対象にヤングケアラーを追加する考えだ。改正案は今国会に提出された。ヤングケアラー支援が法制化されるとどうなるのか。 澁谷さんは「最終的には人の問題」と話す。 「話をちゃんと聞いて、何が必要となってくるかということをほぐして、子どもたちが選択肢を持ち、頑張れる環境というものを確保できるように、(仕組みを)どう作っていくか。法制化はそうした後押しになると思う」。 澁谷さんは「学校という場を効果的に使っていくことが必要」と強調する。 「なんでもかんでも先生がやるというのは、先生の働き方改革が進む中で難しくなる。でも、学校というのは、子どもたちのことを中心にして考えられた場で、子どもにとっては“行くのが不自然にはならないところ”。子どもたちにとって、この先、生きていくときに役に立つ情報というものが教えられたり、先生たちが新しい制度について知ったりケアを実際に経験したことのある人の話を聞いたりして『子どもがこういう状況になった時にどういうサポートができるだろうか』ということを具体的に思い描くこともできる。授業の一環として、みんなで考えて調べてみることもできる。子どもを通して、アップデートされた情報が親に届く可能性もある。学校という場を上手に使っていくというのはすごく大事だと思う」と語る。 ヤングケアラーは「18歳未満」と定義されることが多かったが、今回の法案では、18歳以上の「若者」も支援対象に加えられた。 「こども家庭庁のヤングケアラーの定義などでは、18歳未満という年齢を明記しないようになってきた。ヤングケアラーの子どもたちが18歳を過ぎるとケアが終わるかと言うとそういうことはなく、18歳以降もケアは続く。また、大学生に対する調査結果なども加味すると、大人への移行期にもある程度サポートが必要ではないかという話になって、18歳未満と言わなくなった」と澁谷さん。 「一方で、ヤングケアラーのライフステージや関心事は、中高生のときと18歳を過ぎてからはちょっと違ってくる。18歳を過ぎると、親の家を出るとか、進学あるいは就職をどう考えていけばいいのか、というときの情報収集や相談や決断の後押しが必要になる。ケアを抱えながらも高等教育機関でやっていけそう、働くことと両立できそう、という見通しを持つことがとても大事。そうした相談が学校の中で完結していた中高生時代とは違う。イギリスなどでは18歳から25歳くらいまでを『ヤングアダルトケアラー』と呼んでいる」。 澁谷さんは2024年に出版された『コーダ 私たちの多様な語り』(生活書院)についても言及。「聞こえない親を持つ聞こえる子どものことを指す「コーダ」という言葉が広まる一方で、コーダのイメージが固定化してきていると感じたので、コーダには多様な生き方があり、ヤングケアラーではないコーダもいる、そうしたことを理解してもらうために本を書いた」と語った。