今回のゲストも、緩和ケア医の山崎章郎(やまざき・ふみお)さん。 山崎さんが「病院で死ぬということ」を著したのが1990年。外科医だった経験をもとに、終末期の患者がどのような最期を迎えるかについて「物語」を描くことによって、自らの最期を患者自身が決めることができない病院医療の問題点を明らかにし、反響を呼んだ。それから34年。がん医療を取り巻く環境は大きく変わっている。 まず情報提供の面では、以前はがんの告知は一般できでなかったが、患者には人生の自己決定権があるということで、インフォームド・コンセント(informed consent)やインフォームド・チョイス(informed choice)が当たり前になってきた。 また、患者たちは一人の医師だけでなく他の医師にも自分の置かれた状況について聞くことができるセカンドオピニオンも保証されるようになった。 がん治療に関しても、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤など新しいものが多々出ており、治療法の発展は日進月歩。 また、かつては亡くなる前でも蘇生術を施したり、人工呼吸をしたりする延命至上主義だったが、いまはそれも是正されてきている。 末期がんの患者などにはACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要と言われるが、必ずしもうまくいっていないが、山崎さんは患者とのコミュニケーションも丁寧に行っているという。 在宅医療をしていても最終的に入院することになる最大の理由は、家族介護の限界。 がん患者の場合では在宅療養をやめて入院する場合、2〜3週間で亡くなるケースがほとんど。逆に言えば、看取りまでの2〜3週間、自宅で介護できる体制が築ければ、在宅での看取りも可能になる。 ケアタウン小平の場合、家にいたいと言った患者の8割は在宅で看取ることができた。 終末期にはスピリチュアルケアが重要になる。人間は人として肯定されなくなったときにスピリチュアルペインを感じる。そんな時は、その人の存在を肯定してあげるようなケアが必要。 ケアタウン小平が子育て支援に取り組んだのも、自己肯定できなくなった子どもだちが学校に行きたくないと思うようになるからだ。その意味でスピリチュアルケアは重要だ。 死んだ後についての不安はもちろんあるが、それについては在宅で看取った多くの人が「死後の世界はある」と考えていた。 山崎さんは「死後の世界はある。ないと困る」と思っていると言う。そして「死後の世界での次のビジョンも考えている」と打ち明ける。 山崎さんは2009年4月から2013年3月まで武蔵野美術大学で「死の体験授業」を行った。 まず、大切なもの20個を書いてもらう。「大切な人」「大切な物」「大切な自然環境」「大切な活動」をそれぞれ5つずつ、合計20個。 そして、静かな音楽を流しながら山崎さんがシナリオを読む。 体調が悪く、病院に行き、検査を受ける。するとがんと判明する。新しい事実がわかるたびに大切なものを1つあるいは2つ消していく。 最終的に大切なものが一つ残る。 「たいていは大切な人が残る」と山崎さん。 死ぬ過程と言うのは身近な自分の大切なものを一とつひとつ失っていく過程ということを学ぶ。 期末テストは「あなたの人生があと3ヵ月だと仮定して、大切な人に別れの手紙を書きなさい」というもの。 山崎さんは「疑似体験でも、人生にとって何が大事なのかということが見えてくると、その大切なもののために生きようと思う」と語る。