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六の宮の姫君

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六の宮の姫君

By: 芥川 龍之介
Narrated by: 斉藤 範子
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代々江戸城の茶室を管理し、将軍や大名に茶の接待をする「奥坊主」と呼ばれる職を務めた家柄に育ち、文芸や芸事への興味・関心を早くから持っていた芥川龍之介。 才気にあふれ、世話好きな性格は周りの人々を惹きつけ、たくさん悩みながらもよく笑い、よくしゃべる人だったそうです。 そんな芥川は、東京帝国大学に入学した翌年、高校の同級だった久米正雄らと共に第三次「新思潮」を創刊し、小説や翻訳を発表しました。 次いで第四次「新思潮」を創刊の際に掲載した『鼻』が夏目漱石に認められ、文壇に登ることとなりました。 その後新聞社に入社し、記者としてではなく専業作家として意欲的に執筆活動を続けました。 芥川は、漱石や森鴎外から文体や表現の影響を受けたり、キリシタンもの、江戸を舞台にしたものなど題材に応じて文体を変えたりと、意識的な小説の書き方をしていました。 また、鈴木三重吉により創刊された児童雑誌「赤い鳥」には、初となる童話作品『蜘蛛の糸』を発表、その後も同雑誌を中心に童話作品を相次いで発表し、幅広く作品を世に残しています。 六の宮の姫君の父は、古い宮腹の生れだつた。 が、時勢にも遅れ勝ちな、昔気質の人だつたから、官も兵部大輔より昇らなかつた。 姫君はさう云ふ父母と一しよに、六の宮のほとりにある、木高い屋形に住まつてゐた。 六の宮の姫君と云ふのは、その土地の名前に拠つたのだつた。 父母は姫君を寵愛した。 しかしやはり昔風に、進んでは誰にもめあはせなかつた。 誰か云ひ寄る人があればと、心待ちに待つばかりだつた。 姫君も父母の教へ通り、つつましい朝夕を送つてゐた。 それは悲しみも知らないと同時に、喜びも知らない生涯だつた。 が、世間見ずの姫君は、格別不満も感じなかつた。 「父母さへ達者でゐてくれれば好い。」――姫君はさう思つてゐた。 古い池に枝垂れた桜は、年毎に乏しい花を開いた。 その内に姫君も何時の間にか、大人寂びた美しさを具へ出した。 が、頼みに思つた父は、年頃酒を過ごした為に、突然故人になつてしまつた。 のみならず母も半年ほどの内に、返らない歎きを重ねた揚句、とうとう父の跡を追つて行つた。 姫君は悲しいと云ふよりも、途方に暮れずにはゐられなかつた。 実際ふところ子の姫君にはたつた一人の乳母の外に、たよるものは何もないのだつた……©2022 PanRolling Asian Literary Fiction

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