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一房の葡萄

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一房の葡萄

By: 有島 武郎
Narrated by: 西村 健志
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「僕」は小さいころ絵を描くことが大好きだった。西洋人ばかりいる学校に通っていた「僕」は、級友のジムが持っている上等の絵の具が欲しくてたまらなかった。「僕」の持っている絵の具ではどんなに頑張っても美しく描けなかったから・・・。

「僕」はあるとき、衝動に駆られてジムの絵の具を盗んだ。しかしすぐに知られて、大好きだった先生に言いつけられてしまった。恥ずかしさや後悔などが混じりただ泣き続けていた「僕」を、先生は優しく許してくれて、一房の葡萄をくださった。

「僕」は翌日学校に行くと、待っていたジムが手を引いて先生のところへ連れて行ってくれた。先生は一房の葡萄を分け与えてくださり、「僕」とジムは仲直りすることができた。

「僕」はあれから少し大きくなり、秋にはいつでも葡萄が美しく実るけれども、あの日葡萄をくださった先生の美しい手は、もうどこにも見つからない。



 一房の葡萄は有島武郎の創作童話。子どもたちの誰もが持っている欲求や悲しみ、恥ずかしさといった気持ちを、有島本人の幼少期の体験に基づいて描写しています。

 あのとき絵の具を盗んだりしなかったら…

 あのとき盗んだことが露呈しなかったら…

 あのとき先生が仲直りさせてくれなかったら…

 僕はいまどうなっているのだろうか。幼少時代を回顧して現在の自分のあり方を思う、誰しもが心に持つ疑問を投げかけています。

 盗むのは悪い、恥ずかしいことだと知ってもらうことは大切です。ですがそれだけでなく、どうして盗んだのか、どうして絵の具が欲しかったのか、その気持ちを知ってあげることも大切だということが、先生の優しさに現れています。

 大人には、自分を振り返り、懐かしい気持ちにさせてくれる。子どもには、良いこと悪いことだけでなく、気持ちを知ることの大切さを教えてくれる。大人にも子どもにも、一度は聴いて欲しい名作です。

(c)2017 Pan Rolling
Asian Literary Fiction

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